今回のアメリカ大統領選でドナルド・トランプ氏が再選された。選挙前の大方の予想は民主党のハリス氏との大接戦だったが、蓋を開けてみると、誰の眼にもトランプ氏の勝利が明らかな結果に終わった。
なぜアメリカ国民はトランプ氏を選んだのか。バイデン政権下での長引く物価高と不法移民への不満がトランプ票へ投じさせたというのがマスコミの見立てであるが、ハリス氏が「黒人」であり、かつ「女性」であったことも無視することはできない。アメリカ大統領は、オバマ氏という例外はあったものの、建国以来、一貫して白人であることが不文律であるかのような「白人至上」が根強く残っている。有色人種が大統領になるのは極めて難しい。そして、かつてヒラリー・クリントンが阻まれ、今回も突き破ることができなかった〝ガラスの天井〟という女性を阻む見えない障壁が最後にハリス氏の前に立ちはだかった。ヨーロッパでは女性の首脳も活躍しているというのに、アメリカで、それが実現しないのは、アメリカが開拓の国だからであろう。開拓時代からのDNAである「正義は自分の力で守る」という国民性がガンマンのような強くて男らしい指導者を好む傾向を生んでいるのだ。
アメリカだけに限らず、ロシアのプーチン大統領、中国の習近平国家主席、イスラエルのネタニヤフ首相、北朝鮮の金正恩総書記など、主な世界各国の指導者は、皆「強さ」を体現した人物である。
「強さ」を体現する指導者は大衆に好まれる。人はなぜ強いリーダーに惹かれるのか? おそらく動物として本能からだろう。ボス猿は群れに外敵が迫った時に身を張って戦い、オオカミのリーダーも率先して獲物を追いかける……群れで暮らす動物のリーダーは自分たちの安全を守り、食べ物にありつかせてくれる頼れる存在なのだ。人間社会においても、特に生命が脅かされているような社会では、ボス的人物がリーダーになる傾向が強い。こうしたリーダーは往々にして好戦的で独裁的な人物であるが、国民にとっては、自分たちの安全と生活を保障してくれれば、それで構わない。民主主義を希求するのは、余裕のある成熟した社会でなればこそなのだ。アメリカ国民は生命を脅かされているわけではないが、トランプ氏は「不法移民にアメリカが侵食されている」、「外国資本に国内産業が乗っ取られる」と不安を煽り、それらを外敵と見立てて脅威の幻想を抱かせ、それに立ち向かう強いリーダーたる自分のイメージを植え付けたのだ。
トランプ氏の勝因の根底には、人間を含めた万物の動物に共通する、〝強いボスに惹かれる〟という本能があると思う。