春は出会いと別れの季節。今年も、入学と卒業、人事異動など、いろいろな場面で、胸をときめかせたり、涙を流したりする人がいるだろう。
ところで、〝出会い〟に関して、スパイはターゲットにした人物を取り込もうとする場合、相手の生い立ち、家族、出身学校、交友関係、趣味など、あらゆることを下調べ(プロファイリング)し、さも偶然、自分も同じであるかのように装って接触してくる。
人は自分と同じような価値観や共通点を持つ人物を好む傾向(「共通項・類似性の原理」)にある。特に男女の場合、「運命の糸で結ばれた相手かもしれない」と思いがち。そして、この〝運命〟をより一層印象付けるのが〝偶然の出会い〟である。
心理学者のユングが提唱した概念の一つに「シンクロニシティ」(日本語では「共時性」と訳されている)というものがある。これは「複数の出来事が非因果的に意味的関連を呈して同時に起きる現象」のこと。たとえば、花瓶が割れたという現象と、その持ち主が亡くなったという現象に因果関係はないが、人はそれに関連を持たせようとする。特に男女の場合、同じ色の服を着て来たとか、こちらが電話しようと思っていた矢先にタイミングよく相手から電話がかかってきたときなど、それらは単に小さな偶然にすぎないのだが、それが重なると、相手を〝運命の人〟と感じるようだ。
元CIA分析官のカレン・クリーヴランドが著したスパイ小説、『要秘匿』(2018年 ハヤカワNV文庫)では、そんな運命の出会いが描かれている。