2024年は1月8日に読了したグレアム・グリーンの『スタンブール特急』を皮切りに、12月29日に読了したヘンリー・ジェイムズの『ねじの回転』まで、計38冊の本を読んだ。
さて、今年もこの一年間で読んだ本のベスト10をつくってみた。下記がそのリストである。
・10位『詐欺師×スパイ×ジェントルマン』 鱸一成(幻冬舎ルネッサンス)
・9位 『シルバービュー荘にて』 ジョン・ル・カレ(ハヤカワ文庫)
・8位 『タタール人の砂漠』 ディーノ・ブッツァーティ(岩波文庫)
・7位 『小説8050』 林真理子(新潮文庫)
・6位 『64(ロクヨン)』 横山秀夫(文春文庫)
・5位 『春にして君を離れ』 アガサ・クリスティ(ハヤカワ文庫)
・4位 『二人の妻を持つ男』 パトリック・クェンティン(創元推理文庫)
・3位 『殺意』 フランシス・アイルズ(創元推理文庫)
・2位『クロイドン発12時30分』 F.W.クロフツ(創元推理文庫)
・1位『キム・フィルビー』 ベン・マッキンタイア (中公文庫)
『詐欺師×スパイ×ジェントルマン』は、スパイ小説を論じた自費出版本である。同じようにスパイ小説論を書いている身として、これ以上、興味ある本はなく、迷うことなくその場で買い求めた。ジョン・ル・カレのスマイリー三部冊(『ティンカー、テイラー、ソルジャー・スパイ』、『スクールボーイ閣下』も『スマイリーと仲間たち』)を例に、サラリーマン社会を切り口にして解くジョージ・スマイリー論は、サラリーマンだった筆者ならではのユニークな論評だ。▼『シルバービュー荘にて』は、ジョン・ル・カレの遺作。詳細は『スパイ小説の世界』(作品書評の「裏切り」というカテゴリー)に掲載しているので、そちらを参照されたい。▼『タタール人の砂漠』は、辺境の砦でいつ来襲するか分からない敵を待ち続ける主人公の緊張と不安を描いたカフカ的な作品。〝タタール人〟というキーワードと幻想的なカバーイラストに惹かれて買った。▼『小説8050』は、80代の親がひきこもり状態にある50代の子の生活を支える「8050問題」を描いたもの。林真理子といえば、かつてベストセラーになった『ルンルンを買っておうちに帰ろう』に代表される明るくユーモアタッチの作品を描く作家というイメージがあったが、この小説は現在の我が国が抱える社会問題に真っ向から向き合ったシリアスな作品だ。▼『64(ロクヨン)』は、ミステリー界を席捲した警察小説の最高傑作といわれるものなので、一度は読んでおこうと思った。これまでの警察小説では取り上げられたことのなかった刑事部VS警務部という組織内の対立を描いた点が斬新である。▼『春にして君を離れ』は、ポアロもマープルも登場しないばかりか、殺人事件すら起こらないアガサ・クリスティがメアリー・ウェストマコット名義で書いた作品。優しい夫、良き子供に恵まれ満ち足りた身の主人公が、旅の途中で、これまでの家族との会話を思い起こし、自分は「誰からも好かれていないどころか、全員に疎まれている」(『名作なんて、こわくない』柚木麻子)ことに気づく〝怖い〟作品である。▼『二人の妻を持つ男』は、社長の娘と結婚し幸福な生活を送っていた主人公が、ある日、偶然、別れた妻と再会した日から、すべてが狂い始め、ついに殺人事件が起こるサスペンス小説の傑作。結末は意外性に富んでいると同時に物悲しい。▼3位の『殺意』と2位の『クロイドン発12時30分』は、ともに倒叙推理小説の二大古典名作。この二冊も一度は読んでおきたかった作品。フレンチ警部の粘り強い捜査によって、犯人の鉄壁なアリバイを論理的に崩していく後者品の方が筆者には面白かった。◆キム・フィルビーを取り上げた書籍は数多く出されているが、ベン・マッキンタイアーの『キム・フィルビー』は彼の「人となりや性格、これまで詳しく論じられることのなかった、いかにもイギリス人らしい人間関係がテーマ」(本書はしがき)となっているところに特色がある。9月1日付のブログで、スパイは人たらしであることを書いているが、キム・フィルビーの〝人たらし〟ぶりがどんなものであるかを本書は余すことなく記している。
現在、筆者の年齢は64歳。元気で本が読めるのも、後、20年はないだろう。昨年末のブログで書いたように、それならば新作に手を出すより、名作や傑作としての評価が定まっている作品を読もうという思いから、今年はミステリーの古典的名作と言われる作品を意識的に読んだ。案にたがわず、期待外れの作品はなかった。2025年も引き続きこの方針を踏襲するが、さて、第一作目は何から読もうか。