書店の文庫本の書棚を見ると、たいてい出版社別に並べられている。しかし、蔦屋書店や個性的な街の本屋など、出版社を問わず作者別に並べている書店もある。どちらがよいのだろうか?
出版社別の書棚は、作者を五十音に並べているので、探している本が見つかりやすいというのが最大の長所。また、書店にとって、売れ筋の本や補充が必要な本が一目で分かるので管理がしやすい。さらに出版社ごとに表紙や背表紙のデザインや色が決められているので、同じ丈・色の本が並び、書棚に統一感がある。
一方、作者別の書棚は、好きな作家のまだ読んでいない作品を探すのに好都合だ。また、大型書店と違って、棚や本の数に限りがある小さな書店にとって、品揃えの少なさをカバーできることもメリットである。さらにセレクトショップの場合、どの作家のどの本を置くかなど、経営者の個性を出すこともできるだろう。しかし、これらの長所は見方を変えると、サイズや色がバラバラの本が同じ書棚に並び、統一感に欠けるという短所にもなる。
出版社別と作者別、それぞれ一長一短がある。筆者の場合、探している本が明確な場合(出版社も分かっていれば尚更)、出版社別に並べられている書店へ行く。特に松本清張の作品の場合、棚差しプレートの「ま」行を探さなくても、新潮文庫なら赤色の背表紙、文春文庫なら黒色の背表紙を目当てに、すぐに清張の作品の前に行くことができる。
一方、作者別の書棚は好きな作家のまだ読んでいない作品を求める場合は勿論だが、翻訳作品、特に複数の出版社から出ているような世界的な名作(例えば、フィッツジェラルドの『グレート・ギャツビー』やオーウェルの『動物農場』など)を買い求める場合、出版社によって翻訳者が異なるので、その場で読み比べて、最も自分にしっくりするものを買うことができる。
『動物農場』は岩波文庫、角川文庫、ハヤカワ文庫、ちくま文庫から出版されているが、筆者には 高畠文夫の翻訳が最も読みやすかったので、角川文庫でこの作品を読んだ。