三番目の真実 『過去からの狙撃者』 マイケル・バー=ゾウハー著/村社 伸訳

ハヤカワ文庫

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 訪米中のソ連外相がニューヨーク近郊で狙撃され亡くなった。さらに、翌日には外相の運転手まで射殺される。しかも同じ銃で。この驚く事実にソビエト陸軍を中心とするタカ派は、アメリカによる反ソ的な謀殺だと怒りを露わに、近々、チューリヒで開催が予定されていた米ソ軍縮会議のボイコットを主張。米ソの関係は一気に悪化しかねない状況に陥った。何としてでも、そうした事態を避けたい米国政府は、実行犯を見つけ出すことを約して、ソ連政府に一週間の猶予を貰った。

 そこで、担ぎ出されたのが、かつては凄腕の工作員だったが、ある任務の失敗でCIAを追われ、今は酒浸りの毎日を送っているソーンダーズという男。CIA長官の命を受けて、早速、ソーンダーズは捜査に乗り出す。しかし、それを嘲るかのように、同じ銃による射殺がアメリカ国内だけでなくヨーロッパでも続いた。唯一の共通点は被害者が全員、かつてダッハウのナチス強制収容所に収容されていたことだった。さらに調べていくうちに、今から30年前に被害者が収容されていた収容所の第13号ブロックで、血塗られた悪夢のような事件があったことをソーンダーズは突きとめた。オーストリア、パリ、イスラエルと舞台を移しながらが、ソーンダーズは、第13号ブロックに収容されていた当時の囚人で、今も存命中の人物を追う。しかし、同時にソーンダーズ以外にも、彼らの足跡を追っている連中がいた……。第二次世界大戦中、実際にあった強制収容所での惨劇を中心に、ナチス残党の暗躍も絡めながら、過去の隠された事実を一つ一つ紐解いていく推理小説的な面白さを持つスパイ小説である。

 作者のマイケル・バー=ゾウハーはブルガリアに生まれたが、ナチスの迫害を逃れてイスラエルで育つ。ジャーナリスト、イスラエル国防相の報道官、大学教員など幅広い活躍を見せるが、本作品は〝小説家〟としても健筆をふるう彼のデビュー作である。

 作品が発表されたのは1973年。訳者が「あとがき」で指摘しているように、70年代初期はデタントの時代であり、作品にも米ソ軍縮会議や米ソの諜報機関が共同で捜査を行うなど、その影響がみられる。

 マイケル・バー=ゾウハーの作品の特徴は、視点を変えると別のものが見えてくるドンデン返しである。本作品でも、収容所の第13号ブロックで起こったおぞましい事件の裏側に隠された恐るべき陰謀が最後に明らかにされる。それだけでも十分すぎるドンデン返しであるが、さらに、もう一ひねり、最後の最後にデタントに水を差しかけない事実が用意されている。あらためて、原題がTHE THIRD TRUTH(直訳すると「三番目の真実」)であることに納得がいく。