図書館が新刊本を貸し出す本当の理由

 1月29日付の筆者ブログ「高くなった文庫本の値段」の中で少し触れた図書館での新刊本の貸し出しについて、もう少し述べたい。

 出版不況の中、図書館で新刊本を貸し出すことについて、出版社や書店組合が批判している。

 これに対して、図書館側は「図書館の貸し出しが本の販売に影響する客観的な証拠はない」と反論し、また、日本図書館協会理事長の森茜氏は「地域の図書館の役割は、地域住民の読みたい本を提供すること」、「公共図書館には本の見本市のような役割があり、優れた本を市民が学ぶ場でもある」とも述べている。(2016年1月24日 産経新聞)

 しかし、この理屈では、一つの図書館で新刊本を20冊も30冊も揃えることについて説明がつかない。図書館が新刊本を貸し出す本当の理由は、別のところにあると筆者は考えている。

 小泉内閣のときに行政改革や規制緩和が大きく推し進められ、公共の図書館もそれまで以上にサービスの向上や費用対効果が求められるようになった。しかし、そうした成果を客観的に評価するのは難しく、〝入館者数〟や〝貸し出し件数〟という、「目に見える数字」でしか評価せざるを得ない。(筆者も一時期、科学館で勤務したことがあるが、「科学に興味を持つようになった」、「科学技術に対して理解か深まった」という科学館の本来の役割ではなく、入館者数でしか評価されないことに対して、如何ともしがたい思いをした。)

 特に指定管理者制度の導入により、民間事業者が図書館の運営を行っているところでは、〝数字〟が次の契約を左右する。こうした公共施設には馴染まない数字至上主義が、- 新刊の人気作品は数字に直結するので -図書館で新刊本を貸し出す真の理由でないだろうか。そして、貸し待ちの期間を少なくすることが、サービス向上だと捉え、同じ作品の新刊本を何冊も揃えようとするのだ。

 書店は商売なので、売れる本を置くことは理解できる。しかし、公共図書館は儲けることが目的ではない。人気作家の新刊本ではなく、売れないが価値ある本を置いてこそ、図書館の存在意義がある。

 確かに一頃に比べて新刊本の値段が高くなった。お年寄りの年金では財布の紐が固くなる。しかし、仮に新刊本の値段が安価であっても、図書館へ行けば無料で読めるのであれば、図書館を利用するのが人間の心理であろう。

 発行から一年間は新刊本を図書館には置かないという猶予期間を出版社側が図書館に求めているが、そうした要請に応えている図書館は少ない。要請ではなく、むしろ強制力のある法制化を望みたいというのが筆者の正直な気持ちである。