情報の信憑性を左右するもの

 現在、公開中の「オペレーション・ミンスミート 」という映画を観ました。

 これは、第二次世界大戦最中の1943年、連合軍がシチリア島へ反攻するのを秘匿するため、イギリスが実際に行った欺瞞作戦(「ミンスミート作戦」)を描いた映画です。

 イギリス海軍情報部は、病院から取り寄せた死体をイギリス海兵隊のマーチン少佐に仕立て上げ、連合軍の反攻予定地をギリシャだと思わせる偽物の作戦計画について触れた手紙を携行させて、スペインの沿岸に漂着するように沖合へ投棄しました。水死体を検分したスペイン当局から、手紙に書いてある作戦計画のことが友好国のドイツへ知らされ、ベルリンはギリシャが連合軍の上陸地点だと信じ込んだのです。

 この作戦が成功した要因は、マーチン少佐を実在の人物だと思わせる徹底した工作ぶりであることは間違いないのですが、それだけではなく、ドイツ側の事情に由るところも大きかったのです。

 映画では、そこまで詳しく取り上げていませんでしたが、映画の原作となった『ナチを欺いた死体―英国の奇策・ミンスミート作戦の真実』(ベン・マッキンタイアー著/小林朋則訳 中公文庫)によれば、ドイツ国防軍情報部の現地担当責任者が功を焦っていたこと、現地から寄せられた情報を最終評価し、ヒトラーへ進言する最高司令部の情報担当指揮官が、密かにドイツの敗戦を願っていたこと、一度、敵の上陸地点がギリシャだと決定づけられると、後からそれを疑う情報が出てきても、都合よく撥ねつけられた、というのです。

 さすがのイギリス海軍情報部も、「嘘を真実だと無意識に思いたがる、〝希望的観測〟」(本書)という人間心理までは計算に入れていなかったようです。

 情報の信憑性は、正に本書が言うように、「その情報が持っている本来の価値よりも、その情報を誰が見つけ、誰が報告するかに左右される」のです。