電子書籍について

 通勤電車の中で本を読んでいる人をあまり見かけなくなった。寝ている人を除いて、ほとんどの人がスマホを見ている。スマホを見ているからと言って、必ずしも電子書籍を読んでいるとは限らないが、少なくとも電子書籍の受け入れ環境については、完全に整っていると言っても過言ではないだろう。

 出版科学研究所の『出版月報』(2022年1月発表)によれば、出版市場全体における電子書籍の割合は27.8%。その中でも、コミックの進展が著しく、電子書籍におけるコミックの割合は実に88.2%と、約9 割に迫る勢いだ。

 年代別でみると、20代~30代では半数以上の人が電子書籍と紙の本の両方を読んでいるのに対して、60代以上では70%の人が紙の本しか読んでいない。(2021年9月、「楽天ブックス」ユーザー調査)

 かく言う昭和生まれの60代の筆者も、紙の本しか読まない。理由はスマホでは読みにくいことや、電子書籍のコンテンツに読みたい小説がないことなどだ。

 筆者は本だけでなく、会社の書類もパソコン上で読むのが苦手である。込み入ったことが書いてある書類は、わざわざプリントアウトして、重要な箇所にマーカーを引かないと、なかなか頭に入らない。DX化、ペーパーレス化を推進する我が職場において、時代についていけていない筆者の肩身は狭い。そんなとき、ネットに掲載されていた、ある記事を読んで、そうしたことに科学的根拠があることが分かり、気持ちが楽になった。

 リコー経済研究所が掲載している記事(2020年9月14日付)によれば、紙に印刷されたものを読むときは“反射光”で文字を読むので、人間の脳は「分析モード」になり、目に入る情報を一つひとつ集中してチェックするらしい。これに対して、パソコンやスマホから発せられる“透過光”で画面を見るときは、脳は「パターン認識モード」になるので、細かい部分を多少無視しながら、全体を把握するという。

 道理で、パソコンでは何回も確認したのに、紙に印刷すると原稿のミスを発見するのは、脳のこうした機能によるものだったわけだ。また、コミックと電子書籍の相性がよいことも納得である。逆に文字を一字一字追っていく小説は、パターン認識には適さないようだ。ゆえに、紙の本がなくなることは、絶対にあり得ないだろう。

 電子書籍と紙の本……それぞれに一長一短がある。ライバル関係として捉えるのではなく、用途に応じて、より適した方、使いやすい方を選択していくのが賢明だ。筆者が指摘するまでもなく、電子書籍は既にそうした形(例えば、コミックなど)で広がりつつある。