まるでスパイ映画のような米大統領のウクライナ訪問

 2月20日、バイデン米大統領がウクライナを電撃訪問し、ゼレンスキー大統領と会談した。この意表を突いた訪問は、ごく一部の関係者以外は誰も知らない極秘事項であった。それもそうだろう。もし、このことが事前に表沙汰になっていれば、訪問を阻止する様々な動きが生じたであろう。

 2月21日付の読売新聞オンラインによれば、訪問は次のような行路で行われた。19日午前4時15分に、ワシントン郊外のアンドルーズ空軍基地を要人輸送機で出発。現地時間19日夕にドイツのラムシュタイン米空軍基地で給油した後、午後8時頃にポーランドのジェシュフの空港に到着。高速道路を車で約1時間走り、ウクライナ国境に近いポーランド南部プシェミシル駅に移動した後、9時37分に8両編成の寝台列車で同駅を出発し、約10時間後の20日午前8時頃にキーウに到着した。

 アメリカの現職大統領が長時間、鉄道を利用するなど極めて異例なことである。通常、警備の観点から、外国を訪問する際も、専用の航空機、ヘリ、車両が使われるのだが、今回は鉄道を利用した方が、人目に付かないため、却って安全だと判断したのであろう。

 随行者はごく少人数の側近、医療チーム、警護官だけ。同行が許された二人のジャーナリストは訪問終了まで報道をしないことを誓約させられ、携帯電話も取り上げられた。また、二人へ送信された出発に関する電子メールでは、情報漏出を警戒して「ゴルフ大会の案内」という偽のタイトルが付けられたという。まるでスパイ映画のような徹底した隠密裏のキーウ行であった。

 米大統領の今回のウクライナ訪問の目的は、アメリカがウクライナ支援していく決意を国内外に広く示したものであるが、それに反発するかのように、ロシアのプーチン大統領は21日に行った年次教書演説で「戦争を始めたのは彼らだ。我々はそれを止めるために武力を行使し、今後もこれを行使する」(2月22日付 SPUTNIC日本)と述べている。

 ロシアがウクライナに侵攻して、2月24日でちょうど一年。しかし、プーチンの演説から読み取れるように、ロシアにはウクライナへの攻撃を諦める気は毛頭ないようだ。専門家によれば、ドイツが世界最強の戦車、レオパルト2をウクライナに供与しても、戦争が長引けば、国力の差からウクライナが不利になるという。一刻出も早く戦争が終焉することを願うのみである。