2023年のマイベスト本

 2023年は1月7日に読了したベルンハルト・シュリンクの『逃げてゆく愛』を皮切りに、12月18日に読了したグレアム・グリーンの『おとなしいアメリカ人』まで、計37冊の本を読んだ。書評を書いている人間にしては、恥ずかしいほど少ない数量であるが、本を読むのが往復の通勤電車の車中、会社の昼休み、週末の午後という限られた時間内であることを考えると、やむを得ないか。

 さて、今年読んだ本(小説に限る)のベスト10をつくってみた。下記がそのリストである。

・1位 『Uボート』ロータル=ギュンター・ブーフハイム(早川書房)

・2位 『軍艦武蔵』手塚正己(新潮文庫)

・3位 『秘密』ケイト・モートン(東京創元社)

・4位 『光を灯す男たち』エマ・スドーネクス(新潮クレスト・ブック)

・5位 『幕末』司馬遼太郎(文春文庫)

・6位 『深海の使者』吉村 昭(文春文庫)

・7位 『樅木は残った』山本周五郎(新潮文庫)

・8位 『湖の男』アーナルデュル・インドリダン(創元推理文庫)

・9位 『さらば、ストックホルム』K-O・ボーネマルク著(中公文庫)

・10位『愛する時と死する時』レマルク(新潮文庫)

 『愛する時と死する時』は第二次大戦に従軍したドイツの青年兵士を描いた世界的な名作文学。▼『さらば、ストックホルム』と『湖の男』は、ともにスパイが登場する北欧ミステリー。本ホームページの書評でも取り上げているので、関心のある向きはそちらを見て頂きたい。▼『樅木は残った』は伊達騒動の首謀者、原田甲斐を主人公に描いた山本周五郎の名作。日本人なら一度は読んでおきたい。▼『深海の使者』は太平洋戦争中、日本とドイツを結ぶ唯一の連絡便の役割を担った潜水艦の決死の航行を描いたドキュメンタリー・ノベルである。▼『幕末』は桜田門外の変など、幕末に起こった十二の暗殺事件を描いた連作小説。この中で清川八郎を描いた「奇妙なり八郎」が筆者には面白かった。▼『光を灯す男たち』は絶海の灯台から3人の男たちが消えた実在の事件を元にしたミステリー調の文芸作品。▼『秘密』は国民的女優ローレルが少女時代に目撃した、母をめぐる恐ろしい出来事。母の過去の隠された秘密を探る、オーストラリアABIA年間最優秀小説賞を受賞したミステリーである。▼『軍艦武蔵』は世界最大の戦艦、武蔵に乗り組んだ生存者(上は艦長から下は新米水平に至るまで)へ徹底的なインタビューを行ったノンフィクション。筆者は十九歳の時、ほんのわずかの期間だが、海上自衛隊の護衛艦で勤務した経験があるので、我が事のように読んだ。▼『Uボート』は世界中で大ヒットした同名映画の原作で、第二次世界大戦下の北大西洋を舞台に、Uボートの過酷な戦いを活写した戦争小説の名作。第二次世界大戦中、出撃した4万人のUボート要員のうち、3万人が帰らなかったという事実がいかに過酷なものであるかを物語っている。

 こうしてリストを眺めてみると、本屋大賞を受賞した人気作品や最近の話題作は一冊もない。食わず嫌いではない。筆者には読みたい作品(主に海外ミステリー、歴史小説、軍事ドキュメントなど)がたくさんあり、最近の若手作家の作品まで手を伸ばす余裕はないのである。それに、お金と時間を無駄にしたくないので、当たり外れがない既に評価が定まった作品へと目がいくのである。

 さて、来年は辰年。どんな作品を読もうか。