ウクライナ侵攻をめぐる情報戦

 2月24日にロシアがウクライナへ侵攻して10日あまり。連日、新聞やテレビはこのニュースを大見出しで報じているが、その中にアメリカとロシア、両国による情報戦も見え隠れしている。

 その一つは、ロシアによる侵攻が始まる前、アメリカがCIAの入手した情報を元に、ロシアがウクライナ侵攻の意図を持っていることを世間に公表したことである。普通、こうしたことは相手国に自国の情報機関の手の内を晒すことになるので、公表されることはない。しかし、今回、アメリカが敢えてそれを行ったのは、ロシアの正確な軍事動静を把握していることを相手に知らせ、行動を思い留まらせようとしたからである。しかし、その後の展開を見れば、さすがのCIAも、歯止めが利かなくなった独裁者(プーチン)の心の内までは読み解くことはできなかったようである。

 二つ目は、ウクライナに住むロシア系住民がウクライナ軍よって殺害されているというデマ情報をロシアが流していることだ。これは、侵略国が昔から用いてきた常套手段である。かつて、ナチスドイツはズデーテン地方(ドイツと国境を接するチェコ領内の地方都市)に住むドイツ系住民がチェコスロバキアから圧制を受けているという言いがかりをつけて、チェコスロバキアへ侵攻している。

 三つ目は、プーチンが最終的に侵攻に踏み切ったのは、侵攻してもアメリカが、かつてのように軍隊を派遣してくることはないという確信を得たからであろう。それは、プーチンがアメリカ政府の考えや行動を把握していたことに他ならない。と言うことは、ホワイトハウスやペンタゴン内部―それもかなり上層部にロシアのスパイが潜入していることを物語る。アメリカ国内で暗躍するロシアのスパイの数は、冷戦時代より増えているという。