『星守る犬』から想うこと

 2009年の大ヒットしたコミック、村上たかしの『星守る犬』を小説化した原田マハの『小説 星守る犬』(双葉文庫)を読んだ。

 主人公は、小学生の女の子、「みくちゃん」によって拾われた飼い犬の〝ハッピー〟。みくちゃんが成長して素行が悪くなった頃、病を患って仕事を失い、妻に離婚を切りだされ、家族と住む家も失った「おとうさん」が、自分の元に唯一残ったハッピーと共に車で旅に出て、死ぬまでのさまを、ハッピーの視点で描いた作品。

 「ダ・ヴィンチ ブック・オブ・ザ・イヤー2009」の「泣ける本ランキング」と「読者が選ぶプラチナ本」の2部門で共に第1位に輝いた、日本中が涙したという感動コミックである。2011年には映画化され、西田敏行がお父さん役で主演していた。

 作品の中で、こんな場面かある。「さんぽしていると、おとうさんは、家にいるときよりもずっとおしゃべりだった。家を出てからいつも、川辺にたどりつくまで、川辺についたらいつもの土手に座って、川を眺めて、ああだこうだ、ぼくを相手に、いろんなことをおしゃべりしていた。」(原田マハ)

 「おとうさん」に限らず、人は愛犬を前にすると気が緩むのか、人前では決して話さないことまで、何でも話してしまう。その中には秘密の情報もあるだろう…。スパイ小説好の筆者は、そこではたと思いついた。もし、密かにVIPの愛犬に盗聴マイクを仕掛ければ、VIPの独り言から機密情報を知ることができるかもしれない…。

 実際、冷静時代、CIAは犬ではなく猫を使って、それを試みようとしていた。作戦名は「アコースティック・キティ」。猫の体内に盗聴器を仕掛け、ソ連の諜報部員が密会に利用する公園にその猫がうろつかせれば、彼らに気づかれることなく情報収集できると大真面目に考えた。猫は空腹になると任務場所から離れてしまうので、空腹を感じなくする手術まで施したのだが、猫は公園近くの道路でタクシーに轢かれてしまい、作戦は失敗に終わる。人間はなんと残酷で馬鹿なことを考えるものだろうか。

〝星守る犬〟とは、「犬が星を見続けている姿から、手に入らないものを求める人のことを表す」意味らしい。大国間で繰り広げられる果てしなき情報戦の根源にあるのは戦争である。この世の中から戦争がなくなることを希求するのは、〝星守る犬〟なのだろうか。