イスラエルが6月13日にイラン各地の核関連施設や軍事拠点を標的にした大規模な攻撃を行ったことが新聞等で報じられていた。
6月15日付の朝日新聞によれば、イラン国内に潜伏していたモサドの工作員がミサイル拠点の周辺に特殊装置を設置し、その装置に誘導された無人機(爆発物を搭載)によってイランの弾道ミサイル発射装置を狙撃。また、空爆と並行して地上での特殊作戦でレーダー施設なども破壊した。これらの攻撃によってイランの反撃能力を削いだ後、イラン革命防衛隊幹部や核開発に携わる科学者がいる場所を次々とピンポイントで空爆し、殺害している。
このことは何を物語っているのだろうか。イスラエル国家安全保障研究所のシマ・シャイン上級研究員は標的に対する情報収集のため「モサド工作員の潜伏など、準備に数年の時間がかかった」(朝日新聞)と語っている。
この数年の間、イスラエルとイランは、少なくとも表面上、争いはなかった。しかし、イスラエルにとって核を保有するイランは潜在的な脅威。イランへ工作員を潜入させることはイスラエルにとって国家存続のため不可欠だが、両国の間が険悪になってから潜入させるのは困難である。このため、相手国の警戒レベルが比較的低い時期から密かに工作員(スパイ)を潜入させ、情報収集を行い、あるいはXデーに備えて準備してきたのだ。
こうした敵国の組織(政府、軍隊、諜報機関など)へ潜入し、その組織内の機密情報を密かに自国へ伝えるスパイのことを「モグラ(又はモール)」と呼ぶ。また、敵国へ潜入し、本国からの指示があるまで、一般市民として普通に暮らし(即ち、眠っている)、指示をきっかけに眠りから目覚め、破壊工作や暗殺を行うスパイを「スリーパー」という。イランの核施設や軍事施設へイスラエルのモグラやスリーパーが、かなり以前から潜入していたのである。
これは他の国々においても同じである。ウクライナに多くのロシア側のモグラやスリーパーが潜入していることは想像に難くないが、ウクライナ側もロシアに潜入させているはず。西側諸国のウクライナへの支援が低調になっている現在、ウクライナはロシアに押され気味だが、たまにウクライナがロシア領内の施設を爆破させたというニュースを聞く。その陰にはロシアに潜入しているウクライナのモグラやスリーパーの暗躍があるのだ。
欧州共同体の国々にとっても、彼らは決して認めないだろうが、例えばフランスの情報機関内にドイツのスパイが潜り込んでいるし、その逆もしかりである。確かに、かつてヒトラーがフランスを攻め込んだようなことは、戦後のドイツにおいはてあり得ないことだろう。しかし、攻め入る意志はなくとも、近隣諸国の内部にスパイを潜り込ませて情報を探ることは国の安全保障上、欠かすことができない。
翻って我が国はどうであろうか。〝スパイ天国〟(スパイが潜入しやすい、潜入しても命の危険は極めて低いとう意味)と揶揄される日本には、ロシア、中国、北朝鮮のスパイだけでなく、同盟国のアメリカのスパイまでもが潜入している。しかし、それは昨日今日に始まったことではない。我々が気づく(ほとんどは気づきもしない)ずっと前から、彼らは我が国の主要な機関へ既に浸透しているのだ。