『映画を早送りで観る人たち』(稲田豊史著 光文社新書)が話題になっている。
Z世代(1990年後半から2000年代に生まれた世代)と言われる若者たちの間では、映画などの動画を早送りで観ることがカルチャーになっているしい。
SNSなどで友人たちとの話題についていくためには、広く浅く知っておくことが必要である。お金と時間に余裕のない彼らにとって、2時間の映画をゆっくり観ているのは、まどろっこしい。てっとり早く、あらすじさえ分かればよいのだ。
また、情報過多によってストレスに晒されている彼らにとって、映画や本によって感情を乱されることも避けたいところ。作品をじっくり味わえば、感情が動かされる。だから、あらすじだけ知れば十分というわけだ。それと同じ理由で、彼らの好む作品は、心に圧し掛かってくるようヘビーなものではなく、何ら煩わされることのない、軽い読み物が中心なのだ。
上記に述べたようなことを、先日、テレビの情報番組でゲスト出演していた著者や、本書の書評(2022年5月28日付、朝日新聞の読書欄に掲載されていた宮地ゆうの書評)で説明していた。
しかし、「なるほど」という思いはしない。小説を通じて、主人公に降りかかる悲喜こもごもを追体験し、それによって心を揺さぶられ、読後も深く心に刻まれる作品を常々読みたい、また、それが小説を読む醍醐味だと思っている昭和生まれの筆者にとって、〝映画を早送りで観る人たち〟の感覚は、やはり理解しがたい。