2022.2.6 文庫本のカバー

 昨今、書店に平積みされている文庫本の新刊を見て感じるのは、アニメ調のイラスト・カバー(ジャケット)を付けた作品が増えていることです。学生時代に読んだ名作の改版(例えば、角川文庫のシャーロック・ホームズ・シリーズや、新潮文庫の『赤と黒』など)ですら、こうした流れにあります。

 私にとって文庫本は、それまで読んできた挿絵入りの児童書と違って、活字だけの地味な体裁(私が学生時代の頃、文庫本のカバーは殆どが抽象的な図柄でシンプルなものだった)の大人の本でした。しかしながら、そうした外面に反して中身は、めくるめくような冒険の世界が描かれているのです。(中学生の頃、父親の書棚にあった創元推理文庫の江戸川乱歩編『世界推理短編傑作集』を読んだ時の驚きは、今でも鮮明に覚えています)このギャップが文庫本の魅力ではないでしょうか。

 昨今のラノベ風カバーの潮流は、本を読まなくなったと言われている若い世代を狙った出版社のマーケティング戦略でしょうが、果たして効果があるのでしょうか? せっかくの名作も却ってチープな印象を与えるような気がするのですが…。

 小説を読む楽しさは、文字情報を頭の中で映像に変換して、その世界を疑似体験することです。主人公の容姿は読者一人一人のイマジネーションによって異なるものです。主人公がイケメンや美少女に描かれたアニメ調のカバー付だと、それに引っ張られてしまう恐れがあります。読者のイマジネーション力を涵養するためにも、文庫本のカバーは、読者に先入観を与えないシンプルなデザインであってほしいと思うのですが、皆さまは、如何お考えでしょうか。